骸×綱吉　10年後設定(綱吉死亡前提)










「骸はオレのこと、嫌いなんだよね」

報告書を提出し、踵を返して部屋を出ようとした骸の背中にアルトボイスがかかる。
骸は一瞬眉を顰め、しかしすぐに仮面の笑顔を作りなおして声をかけた人物――沢田綱吉へと振り向いた。

「概ねそういった感情でしょうかね。『嫌い』という言葉では足りないくらいに君のことが憎いですよ」
「・・・そっか」

綱吉は困ったような悲しんでいるようなあいまいな表情を浮かべ小さなため息をついた。
そんな彼の態度に骸の胸がチクリと痛んだ気がした。
でもそれも一瞬の出来事なので、骸は何でもないと判断し彼にまた背を向けると今度こそ部屋を退出した。

だが、もしもそこでもう一度骸が綱吉の方を振り向いていたら。
もし胸が痛んだ時にもっと深くその理由について考えていたら。





「・・・またいつか、お前に会えたらいいのに・・・」

一滴、空から零れた。





棺にばさっと些か乱暴に花束を置く。
その拍子に花びらが数枚宙に舞った。

「君は本当に甘い男だ」

そう呟いて『�]』の文字が刻まれた棺を右足でガツッと軽く蹴飛ばした。
超直感で死を回避する方法だって考え付いただろうに。
思えば彼はいつだって自分より他人が傷つくのを恐れた。

「これでは君の体を乗っ取れないじゃないですか」

マフィア界トップと名高いボンゴレ10代目の体を使って世界を滅ぼすのが己の悲願だったのに。

（・・・肝心の標的がいなくなったら意味がないじゃないか）

ガツンッとまた棺を蹴る。
彼が死んでからずっと胸やけのようなものが続いていた。

「沢田・・・綱吉」

ガツッとまた棺を蹴った拍子に棺の蓋が少し開いて中で眠っている綱吉の顔が隙間から少し見えた。
骸の胸がドクンと鳴る。

「・・・まるで、今にも起きそうなまぬけヅラじゃないですか」

フッと笑いともため息ともとれない声が己の口から洩れる。
それは徐々に声にならない嗚咽に変わった。

「起きてくださいよ・・・じゃないと僕は君を・・・」

「乗っ取れない」と続くはずの言葉が出ない。

（僕はこんなに彼に執着していたのか）

ぐっと拳を握り両目を閉じる。
思い浮かぶのは綱吉の困ったような笑顔だった。

（僕の中でこんなにも君が・・・）

憎い人間の笑顔だからこんなにも印象深いのだろうか？

（・・・憎い、のか？）

頭のどこかで「否」と声が聞こえた気がした。
では一体――



（・・・まさか、これが）



「いまさらだ、こんなもの・・・」

棺の蓋を完全に開け、眠っている彼の唇に己のそれを重ねる。
最初で最後の冷たい口付けだった。










眠り姫に懺悔のキスを
ねぇ、王子のキスでは目覚めてくれないのですか