――夢を見た。



「どんな夢だったんだ?」

隣でおにぎりをもぐもぐと頬張っていたオレの数少ない友人の一人である佐々木が尋ねてきた。
昼飯を食べてから二時間しか経っていないというのに、どこで買ったのやら彼はたくさんの食料を確保していた。
ちなみにオレたちが今いるのは修学旅行中のバスの中だ。
目まぐるしく変わる景色に少し酔いそうになった。

「どんなって・・・なんか、今より大人になった感じの兄さんがオレの手を取って指に口付けして『誓います』とか言う夢だった」
「ぶはっ!なんじゃそりゃ・・・ってかお前の兄さんてあの黒曜高校の生徒会長だよな?」
「うん、そうだよ」

「あのイケメンか〜」と佐々木はなにやら頷きながらやはりおにぎりにパクついていた。
が、いったん飲み込むとまたこちらを向いた。

「んで、指ってどこだよ」
「へ?・・・あぁ、ここ」

オレは右手の人差し指で左手の薬指を指す。
すると佐々木は眉を寄せた。

「それってまるでお前とお前の兄さんの結婚式みたいじゃん」
「・・・・・・・・・は?」
「だって左手の薬指って言ったら結婚してるって意味だろ?」
「・・・そうだっけ?」

恋愛事情にいまいち疎いオレはそれぞれの指に関する意味など正直何も知らない。
だが佐々木が言うのならきっとそういうことなのだろう。
・・・だが、だがそうすると。

「・・・オレ、たまに現実の兄さんにも薬指にキスされるときあるんだけど」
「・・・・・・・・・」

佐々木はオレの言葉におにぎりを咥えたままの顔で固まった。

「・・・じょ、冗談なんじゃねーの?アメリカンジョーク、とか・・・」
「・・・・・・そうかな?」

アメリカンジョークとは果たしてそういう意味だっただろうか?
だがこれ以上考えても深みに嵌るだけのような気がしたので、自分から話を打ち切ると違う話を友人に振ったのだった。





『ボンゴレ10代目の守護者ではなく、沢田綱吉の恋人として、君を守ることを誓います』
『お前らしいね』
『マフィアに膝を折るなどありえませんからね』
『そのわりには霧のリング持ってるじゃん』
『これは君を守るのに都合がいいからですよ。必要なくなったらそのへんに捨てます』
『ちょ、それ大事なんだから勝手に捨てるなよ!?』
『・・・・・・じゃあ君に伝えてから捨てます』
『・・・・・・・・・もういいよ』





ふと瞼を持ち上げた。
視界には暗がりの中、無機質な天井が一面に広がっている。
修学旅行の宿泊先のホテルのオレと佐々木に宛がわれた部屋の天井だ。

「・・・ぼん、ごれ・・・・・・」

夢で出てきた言葉を無意識に声に出していた。
馴染みのない言葉のはずなのに、妙にしっくりとくる。

「ぼんごれ・・・・・・ボンゴレ、」


“ボンゴレ10代目”?


布団から腕を出し、両手を顔の上にかざしてみる。
一瞬、オレンジ色の炎が両手を包んだ気がした。

「・・・あれ?オレ・・・・・・」



「思い出しました?“綱吉くん”」



声のした方を振り向いて驚く。
そこには微かにカーテンが揺れる窓べりに足を組みながら優雅に座っている、ここにいるはずのない兄の姿があった。










おはよう愛しの恋人、さらば愛しき
どちらも愛していることに変わりはないけれど、









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